SKJ対談

子どもの命を守るために社会の仕組みを変えていきたい。
政治家だからできることに挑み続ける

専業主婦の"普通のママ"から、政治の世界に飛び込んだ矢口 まゆさん。2018年に子どもの事故予防を政策の軸に据えて立候補し、初当選。現在に至るまで東京都町田市議会議員として多忙な日々を送っています。市議会議員2期8年の中で、矢口さんが子どもの命と権利を守るために実現した提案は90に迫ります。矢口さんの活動への信念と目指す社会について、お話を聞きました。

子どもの事故予防のために、なぜ政治家を目指したのか

大野 美喜子
(以下、大野)
近年、事故による子どもの死亡数は減少傾向にあります。これはうれしい傾向ですが、一方で、子どもが事故によってケガをしてしまう数に大きな変化は見られません。本当に憂慮すべき問題です。なぜなら例え死亡に至らなかったとしても事故の程度によっては、その後の子どもの人生を変えてしまうこともあるからです。矢口さんは市議会議員という立場で「子どもの事故予防」を政策の軸に置き、日々パワフルに政治活動をされていますね。セーフキッズジャパン(以下、SKJ)としても矢口さんの存在を頼もしく感じていますが、そもそもなぜ町田市の市議会議員になろうと思ったのですか?
矢口 まゆ
(以下、矢口)
私はいわゆる普通の専業主婦でした。特に政治に興味があったわけではなく、22歳で結婚し、25歳で長女を出産したことを機に仕事を辞め、引っ越してきた町田市でママをやっていたのです。そんなある日、在宅で子育てする親や子どもも参加できる認可保育園のイベントに参加しました。その時、庭に植えられていた木から丸い実を園児が採り、乳幼児に食べさせている様子を目にしたのです。丸い実が乳幼児の喉に詰まっては大変なことになります。しかし保育園では特に気にしている様子はありませんでした。また別の日には、フォークを口にしたまま歩いている乳幼児を見ることもありました。もし転んでフォークが喉に刺さったら重大事故になってしまいます。保育園の先生方が一生懸命に保育をしてくれていることは分かっていましたが、子どもの事故予防に関しては少し意識が甘いのではないか。そんな疑問を持つようになったのです。気になったことはそのままにしないのが私の性格でして、すぐに子どもの事故予防について調べ始めました。すると2016年に内閣府から子どもの事故予防に関するガイドラインは出ているものの遵守が徹底されていないということが分かりました。ではどうすればいい? どうしたらこの現状を変えられる? このまま声を上げないときっと何も変わらない。そんな思いが徐々に湧き上がってきて、社会の仕組みを変えられる政治に興味を持つようになったのです。
大野
2018年に28歳という若さで町田市議会議員に初当選されたわけですが、政治家を目指すということは大変な決断だったのではないですか。
矢口
繰り返される子どもの事故を少しでも減らしたかったんです。そのために自分ができることをしたいという気持ちがまずあって、実現の手段として市議会議員になることを決断しました。周囲も応援してくれましたし、子どもの命や権利、子育てに悩む親のために役立ちたいという思いが強かったですね。
大野
実際に市議会議員になってみて、いかがでしたか? 矢口さんの政策実現はスムースに進んだのでしょうか?
矢口
子どもの事故予防は、当時の政治の中ではあまり重要視されていませんでした。議員になって初めて私が議会で行った一般質問は、もちろん子どもの事故予防に関することでしたが、反応がいいとは言えなかったです(笑)。ただ、内閣府のガイドライン遵守を徹底させるべきという私の意見に町田市の担当部署が動いてくださって、市立保育園の給食の見直しが行われたのです。これは本当に嬉しかったですね。行動すれば変わる。そう確信しました。

政治の力で社会の仕組みを変えていく

大野
矢口さんのように子どもの事故予防に関心を持っている方は日本全国にいて、SKJにも様々な問い合わせがあります。乳幼児の給食に関しては特に多いですね。ミニトマトは4つに切って提供することや乾いた豆を安易に食べさせてはいけないなど、乳幼児に関わる仕事をする人なら知っておくべきことなのですが、実際の保育の現場ではいまだに徹底されていないことが多いのです。問い合わせが来たらSKJとしては何ができるかを調査して、関係各所に改善の要望書を出すようにしています。行政や教育機関などに働きかけることもありますが、改善がスムースに行われることは決して多くありません。
矢口
なるほど、そうなんですね。おそらく行政も取り組むべき多くの課題を抱えていますから、個別の事案全てに対応するのは難しいのでしょう。だからこそ、政治の力が必要なのかもしれないですね。
大野
私もそう思います。各自治体の行政担当者が個別の事案に丁寧に対応することも大切ですが、解決策をそれだけに頼らず、子どもの事故予防に対する意識や社会の仕組みそのものを変えていく努力も必要だと思っています。SKJは子どもの事故予防に関する専門家ではありますが、社会の仕組みを作る政治や仕組みを運営する行政を動かすことはなかなか難しい。そういう意味で、矢口さんのような政治家の存在は本当に心強いと思っています。2019年に矢口さんが超党派で立ち上げた「子どもの事故予防地方議員連盟(以下、議連)」にも大きな期待を寄せています。
矢口
ありがとうございます! 町田市でできたことは他の自治体でもできるはず。その思いが私を動かしました。議連を作ることにアドバイスをくださった山中龍宏先生(現・セーフキッズジャパン顧問)との出会いも大きかったですね。議連の活動に賛同してくださる地方議員の方は多く、現在は130名を超える会員数です。
大野
それはすごいですね。
矢口
保育中の事故や学校でのプールや部活での事故など、残念なことですが、子どもの事故は毎年どこかで起こっていますよね。原因究明と改善に動き出す地方議員は多いのですが、その際に必要なのがエビデンスです。子どもの事故予防の専門家であるSKJから事故が起こる潜在的な背景を教えてもらったり、事故予防に必要な知識を教えていただけるのはとても心強いです。SKJの知見を共有できることで、私たち地方議員も胸を張って議会で発言できるんです!
大野
こちらも、議連に参加する地方議員の皆さんには全国の保育状況などの調査に協力いただき、とても助かっています。これからも議連に参加する地方議員の皆さんの政策実現に役立つ情報を提供していきたいと思いますし、子どもの事故を減らすために、お互いの強みを活かした協力ができればと思っています。
矢口
予防できた事故はメディアに取り上げられることもありませんし、評価されることはなかなか難しい。でも私のような政治家が事故予防への取り組みを進めることで「守ることができた子どもの命」が確かにあるはず。そう思って、活動を続けたいと思っています。

子どもが安心して暮らせる社会を作るために

大野
議連では現在、どのような取り組みをしているのですか?
矢口
議連に参加している地方議員は関心の高い分野がそれぞれ異なります。公園の遊具だったりプールや水辺の事故だったり、道路などの交通環境に関心が高い地方議員もいます。議連では頻繁に勉強会を開いて、議員間で課題を共有するようにしています。私はプールでの事故や幼稚園バスの安全対策に関する問題に強い関心があります。子どもの事故は様々な場所で起こりますので議会における提案も多様なものになりますが、子どもの事故予防に関心を持つ地方議員が日本全国にいるということは、議会で意見し、社会を動かしてく上で大きな力になります。議連としてはこれからも、子どもの事故予防に関して声をあげていきたいと思っています。
大野
矢口さん自身でも、子どもの事故予防に関してこれまでに数多くの政策を実現してきたと思いますが、その中でも印象に残っているものは何ですか?
矢口
どの政策にも力を入れて取り組んできましたが、中でも力を入れたのはプールでの事故予防ですね。水深に関しては本当にしつこく議会で質問や提案をしました。他の市議会議員から「またプールの水深の話?」って言われるくらい(笑)。ただ、プールの水深に関しては具体的な目安がなく、水泳指導なのか水遊びなのかの区分けも安全基準も曖昧であることに課題を感じており、何の対策もされないままに諦めることができませんでした。私が議会で問題提起したことで、最終的には、町田市の市立保育園における水深の管理方法について、市内の私立認可保育園にも共有することで、一定の目安を示すことができました。国が水深について目安を示さない中で、市が独自に対応している先進的な事例だと思います。
大野
さすがの行動力ですね! 粘り強く突き進む矢口さんのような政治家がいることで、社会は変わっていくことができるのだと思います。SKJとしても、社会の仕組みを変えるための努力を引き続き続けていきたいと思っています。子どもの事故予防に向き合う責任を保護者個人だけに負わせるのは限界があります。起こるか起こらないか分からない事故に対して常に予防策を考えておくなんて、保護者としては正直、面倒くさいですよね。それに子どもが成長してしまえば、子どもの事故予防について考えるご家庭も少なくなっていくでしょう。だったら社会の仕組みを変えるしかない!
矢口
SKJでも様々な取り組みをされていると思いますが、特に窓の補助鍵設置については積極的に活動されていますね。社会の仕組みを変えるとしたら、どのような取り組みが考えられるでしょうか。
大野
ベランダからの子どもの転落事故が、毎年のように起こっていますよね。防げたはずの事故ではないかと思うと、いつも悔しさが込み上げてきます。また、子どもから目を離した保護者に非難が向けられる社会の風潮にも疑問を感じています。私が取り組み事例として注目しているのはアメリカのニューヨーク市で、幼い子どもがいる家族に部屋を貸す場合、オーナーは窓ガード(開放制限装置)を設置しなくてはいけない法律があるんです。窓からの子どもの転落事故が多いことを問題視し、1986年に作られた法律です。この法律によって、ニューヨーク市では子どもが窓から転落する不幸な事故が大きく減っていきました。子どもの安全を保護者の責任にするのではなく、社会全体で考え、仕組みを作ることが大切であることを示す良い事例だと思います。
矢口
私も子どもの事故について、単純に親のせいにするのは問題があると思います。そもそも子どもが事故に遭わないような社会にすることが大切。マンションなどの設計をする際は、子どもの事故予防に配慮した設計をしなければいけない。そんな合意形成ができている社会であれば、子どもの転落事故は大きく減らすことができそうですね。
大野
社会の仕組みを変えていくことにプラスして、子どもの事故予防とはどういうものなのかを多くの人に知ってもらう機会も必要だと思っています。日本では保育や学校教育を習得する過程において、子どもの事故予防について学ぶ機会がほとんどありません。SKJとしては、子どもの事故予防について学ぶ教育システムの構築を急ぎたいと思っているんです。実は「セーフキッズマイスター」という制度を始めたんですよ。保育園の先生など、子どもに関わる人たちが事故予防に関する知識を学べる制度です。全国に広めていきたいと考えています。
矢口
それはいいですね。子どもの事故予防に関して知識を持つ人が日本全国に増えていけば、政治家が子どもの事故予防について提案した時に理解を示してくれる人も多くなると思います。そうすれば、子どもが安心して暮らしていくための仕組み作りに対して社会の合意形成も進んでいくと思います。SKJの知見と政治の力で、子どもの命と権利を守る社会を実現する活動をさらに加速していきたいですね。
矢口 まゆ
東京都町田市議会議員。1989年10月16日生まれ、北海道釧路市出身。2018年、子どもの事故予防を政策の軸に据え地盤看板ゼロで町田市議会議員選挙に挑み、初当選。以降、子どもの事故予防に関する政策を次々に実現し、2019年には「子どもの事故予防地方議員連盟」を発起(現:副会長)。「校則と児童生徒指導を考える地方議員連盟」でも副会長を務める。子どもの事故予防地方議員連盟の活動は、マニフェスト対象優秀賞、Safe Kids Award賞など受賞。2児のママ。